■「量産型事件」第4回(ためし読み)

 「いいですよね、エイティーズ。チープな工業製品みたいに、みんな無個性で」

 「無個性?」

  それは聞いたことのない評価だったので、返す返事がオウム返しになった。

  でもそれだけでは足らず、私はさらなる疑問を付け加える。

 「今の私たちからすると、すごく個性的な時代だったように感じるんだけど?」

 「時代としては個性的だったかもしれません。

  でもそれは多分結果論で、あの時代の中で生きていた人や物は、みんな平均を求めていたと思うんです。

  人間ではなくテクノロジーが社会を動かすようになって、

  幸せのあり方も電子計算機がはじき出すようになったから、

  みんなの価値観が同様の平均値に収まるようになった―――そんな時代だったんじゃないでしょうか」

 「でしょうか、って言われても……」

  私も物心着いたときにはすでに90年代だったので……

 「あの時代、個性は選ばれた人にのみ与えられる才能だった。

  その他大勢の人は大多数でしかなく、それは言っちゃえば量産型=c………」

「……っ」

  どきん、と、心臓が1回、大きく太鼓を打った。

  少し前まではプラモデルの商標でしか目にしなかった単語。

  自分には関係の無いはずだった単語。

けれどその単語に呪われたように、

  今は不穏なことに巻き込まれているお兄ちゃんと……恐らく私。

  不安な気持ちに煽られるように、自分が発散している空気が一気に緊張したのがわかる。

  警戒心というヤツだ。

  気付いていないのか無視しているのか、カンガルくんはやはり表情も無く、ステージを向いている。

「社会はテクノロジーによって動かされ、人間はその誇りある歯車となって人生を駆動し、

  しかしそれだけでは無味乾燥になりかねない時代の空気を、選ばれた個性が責任を持って着色して行く。

  幸せな時代の完成形だったんですよ、エイティーズは」


■もどる