■「量産型事件」第3回(ためし読み) 「ストーリーには異様に手厳しいネット批評家―――同じような人間は他にもいる。アニメやゲームを作りたいと思ってるけど、絵も描けないし作曲も出来ない。 じゃあせめてクリエイティブなイメージで目立ちたいと、 秋葉アイドルやったりコスプレしたりするほど容姿や挙動にも自信がない。 あらゆる消去法の果てにたどり着いたのはここしかありませんでした、っていうような ストーリーライター志望者。多いよね。 拗れてるよね。 足りてないよね」 しおん先生の首には、幅広で異様に長いマフラーが巻かれている。 両端には大きな手袋が付いていて、飛び回ることを止めて地に立った今の状態だと それはだらんと先生のヒザ下辺りまで垂れ下がり、遠目に見ると第2の腕が生えているように見えた。 それがしおん先生の武器だった。 手袋の部分には何か重石のようなものでも入っているのか、先生が宙を飛び、 そして空中で身をひるがえすと、マフラーは遠心力を得て自然と伸長し、 手袋の部分がまるでビンタでもするかのように敵を打撃する。 まるでエロアニメの触手か格闘ゲームのキャラのように、 第2の腕はそれ自身が意志を持っているかのように巧みに動作した。 都合4本腕のしおん先生は、異形に足るまさしくモンスターとして不気味な闘気をまとって立っていた。 「足りてない。全っ然足りてない。僕も貴方もキミたちも。 なのに勝ち残るのは世の中に媚を売るのが上手いヤツさとワケ知り顔で、 証を残せない自分自身へのイイワケばかりが上手くなる。 充足、それはあまりにも短絡的な充足」 怒りを堪えるようだったしおん先生の声。 しかし言が続くにつれ、それは唸り声を上げていた海が凪いで行くかのように、 徐々に穏やかなものになって行った。 「……でもそれで満たされるというなら、僕は、あえて薄っぺらな人気作家をやるよ? ツッコミどころ満載のスキだらけの文章をさらして、親密性の高い言動で私生活をさらして、 歪んだ性癖だって、成功者の代償だと装って醜くさらしてやるさ。 そうやって牽引する役まわりもこっちの世界には必要なんだ。 不可欠なんだ。絶対条件でもあるんだ」 |
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