■「量産型事件」第2回(ためし読み) 「文庫本やコミックに付いている帯ってさ、ちょっと古いのが そのまま残ってると切ない気持ちになるよね。 アニメ化決定、とか書いてあって『あぁ、そういやコレってアニメになって たよなぁ』って、 今さらながら思い出したり。 ……消費され てるよね、笑っちゃうくらい」 言いながら、咲さんは本当に笑った。 ビルが丸ごと一つ書店になっているような所ではコミック売り場って大抵地下や別館にあるのが普通だけど、 今いるここは1階がコミックフロア兼ラノベフロアになっていて、 端っこの方にはDVDショップまで併設されていた。 品揃えは豊富だけれど、逆にそれがあまりにも無難すぎるように感じられて、 ここで平積みになっている作品はむしろ「ない」んじゃないかと思い、 僕はこの店を何となく守備 範囲から遠ざけてる。 「それにしても、電撃の棚の占拠率は不動だね。 一時ガガ ガが怒涛の攻勢を見せたときは思わず応援したけど、 結局アニメ化でフェアを組むのは電撃だもんなぁ……やっぱ 勝ち目ないか。 てか、ガガガとGAって、被ってると思わな い?」 新刊本の棚を背に、咲さんと僕は出版社(レーベル)ごとに並んだ既刊本の棚と向かい合っている。 待ち合わせに20分も早く来た僕より咲さんは先に来ていて、 見たこともないレーベルの聞いたこともないタイトルの本を読んでいた。 まぁここには聞いたこともないタイトルの方が圧倒的に多いんだけれども。 僕を見つけるなり咲さんは本を丁寧に棚に戻し、いきなり語りだしたのが先ほどの市場分析(?)である。 「ジムくんのラノベデビューってばなんだった?」 律儀にも、倒れていたポップを直しながら咲さんは聞いてくる。 「小学生の時に読んだ『ブギーポップ』ですかね」 「『キノ』や『Missing』は?」 「最初の方だけ」 「うおー、キミに電撃!」 「? CMでしたっけ、それ」 「時代が違うなぁ……『ブギーポップ』なんて最近じゃん」 「アニメから入ったんで、最初はノベライズかと思ってたんですけどね」 「やってたね、そういえば。スガシカオと杏子だっけ」 「ああ、オープニングとエンディング」 「アタシは中澤さんのCMのが好きだったなぁ」 「ナカザワ……?」 咲さんとの会話は、いつも豆知識的なところから展開して行くので、時折付いて行けないことがある。 「にしてもノベライズかぁ。今でこそ当たり前だけど、昔はそれだけでメディアミックスとか言われてたな」 「昔って……咲さんはいくつなんです?」 「アタシのラノベデビューは1歳の時に読んだ『ロードス島』。 その後『アルスラーン』や『風の大陸』でハルキに踊らされつつ 『ドラゴンランス』から海外に行って…… アタシの中で翻訳 の神は矢野徹より安田均、みたいな?」 「1歳で読んでたんですか……」 出会って数ヶ月。 けれどもそれくらいの期間を経て親しくなっていたのなら 「そんな今さら」と苦笑するほどの自己紹介のような基本情報さえ、僕は咲さんの何をも知らない。 |
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