■「量産型事件」第1回(ためし読み) いつまで経っても新刊の出ない、大人気ライトノベル作家が殺された。当局はファンによる犯行だとして捜査を進めている。 作画背景音響に至るまで、すべてをたった一人でこなすアニメーション作家も殺された。 当局は版権管理を任されていた身内の犯行だとして捜査を進めている。 お兄ちゃんロックなるジャンルで人気を得たインディーズバンドのボーカルも殺された。 当局はいまだ犯人の目星さえ付け切れていない。 商業ベース顔負けの販売数を誇る同人ゲームの絵描きが殺された。 そのシナリオ担当者も殺された。 その音楽担当者も殺された。 警察当局は量産され続ける事件に、パニック状態だった。 「いよいよ徹底してきてるね、オタク狩り」 「違うよ。神狩(かみがり)だ」 「それ、ネットだけの呼び方でしょ? 小倉さんはオタク狩りって」 「小倉さん?」 「朝の8チャンネル」 「ワイドショーかよ」 少し広めのロフト付きワンルーム。それを仕切っただけの2部屋。 女である妹よりも荷物の多い僕は、若干広めの方を使わせてもらっている。 でもテレビはこっちにあるし、食事をするのもこっちなので、 妹の珠(たま)は、くつろぐときは大抵こっちにいる。 机に向かった僕は、僕のベッドに寝転がる妹と背中越しに会話する。 「でもさすが、その呼び方には偏見がありますってチャンと言ってたよ。 あの人もオーディオオタクなんだよね」 「発言が影響力を持ってる時点で、小倉さんも……殺された人たちも、 厳密にはただのオタクじゃない。 上位種族の……つまり神だよ」 「じゃあ、次に殺されるのは小倉さん?」 「かも知れないし……違うかもしれない。次に殺されるのは……僕かも」 「はへ? なんでそうなっちゃうの」 「僕が管理しているこの総合感想系サイトには、一ヶ月で15万のアクセスがある。 影響力という点じゃ、僕にも殺される資格がある」 「でも15万人じゃ視聴率1パーセントにもなんないよ? サイト管理だけで影響力って……ちょっとかっこ悪いよ、お兄ちゃん」 「ウチのサイトで盛り上がった内容どおりに終わったシリーズもある!」 「アニメって1つのお話を作るのにどれだけかかるのかなぁ……。 この間みた雑誌だと作画は2、3週間で済ませちゃうらしいけど、 それでも1クールものだったりすると、脚本は第1話放送時点でほとんど終わってるらしいよ。 放送の感想を見て内容をいじるなんて……ましてやラストを変えるなんて、 物理的に無理なんじゃないかな」 「け……けど、キャラクター1人の決着の付け方くらいは変えられるだろ。 ほら、監督権限とかで」 「監督権限って、つまり監督判断のゴリ押しでしょ? 決定するのは監督で、たとえばお兄ちゃんのサイトを監督が見ていたとしても、 ラストを決めたのはお兄ちゃんたちじゃなくて監督ってことなんじゃないかな?」 「ぅぐ…………」 |
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